娼妓の年齢

私娼には、十三四歳より、四十五六歳、乃至五十歳以上に至る者もあるが、娼妓は、十八歳以下は法律を以て厳禁され、十八歳以上に於ては別に制限なく、四十歳を超へた者もあるが、概ね二十歳乃至三十歳の者が多く、市内及那部に於ける、、大正四年より十三年に至る十年間の娼妓の年齢を見るに、二十歳以上を五歳別に見、二十歳以上二十五歳未満の、二千七百〇八人最も多く、之に次ぐものは、二十五歳以上三十歳未満の一千百六十一人で、二十歳以下一千百二十一人之と比肩して、三十歳以上三十五歳未満は二百九十九人、三十五歳以上は流石に少く、僅かに一百人を数へるに過ぎない。之を累年別に見ると、其の間多少の一高一低はあるが、二十歳以上二十五歳未満のもの、及二十五歳以上三十歳未満の者は、漸減的傾向を示し、之と反対に、二十歳以下の者及三十歳以上の者は、増加する傾向を見るが、これは一般に婦人の知識が進んだ為、二十歳以上になると、如何なる家庭の事情あるにもせよ、身売をせられるを拒む為ではなからうか、若し然りとするならば、二十歳以下の増加は之と反対の説明を以てなすを得べく、三十歳以上の増加こそ、経済的窮迫の然らしむるところであるとなす事が出来やう。然しながら、此の数字は新に娼妓を許可せられたらものによるのでなく、在数を以て十る為、直ちに以上の説明で足れりとする事は出来ない。

自大正四年至大正十四年十ヶ年間娼妓年齢累年表

  大正四年 同五年 同六年 同七年 同八年 同九年 同十年 同十一年 同十二年 同十三年
18歳以上
20歳未満
481 469 1443 1414 1533 1358 1418 1792 448 827 1131
20歳以上
25歳未満
3652 3593 2703 12809 2627 2546 2620 2686 1456 2391 2708
25歳以上
30歳未満
1466 1468 1128 969 905 1166 1233 1105 938 1228 1161
30歳以上
35歳未満
212 215 327 291 242 332 361 304 342 361 299
35歳以上 46 43 100 96 94 70 90 108 179 182 100
5857 5788 5701 5579 5401 5499 5722 3995 3363 4989 5389

更に、大正十四年未警視庁保安課に於て調査したる、市内及郡部九ヶ所に於ける、娼妓五千百五十二人の年齢は左表の如く、二十一歳最も多く、二割一分、二十二歳一割四分、二十三歳一割二分と云ふ順序で、四十歳以上に及ぶものは僅かに六人、(一厘二毛)にすぎない。

年齢によりて分ちたる娼妓数及百分比(大正十四年十二月未調)

年齢別 実数 百分比
21歳 1104 21.43
22歳 737 14.30
23歳 632 12.27
24歳 631 12.25
25歳 515 10.00
26歳 423 8.21
27歳 330 6.40
28歳 254 4.93
30歳未満 306 5.94
35歳未満 185 3.59
40歳未満 29 0.56
40歳以上 6 0.12
合計 5152 100.00

売笑婦といひ、売春婦といひ、更に色を鬻く業といひ、その何れも豊満なる肉の所有者でなければならぬ。勿論、容貌の美醜、接客の巧拙も亦、大いに関係のあるとこるであるが、最も露骨に云へば、豊満な肉の所有者であるといふことが、第一条件である。而して、此の条件に適ふものは、妙齢の女でなければならぬ。

此の意味に於て売笑婦と年齢とは、非常に密接なる関係にあるものである。ここに、曾て米国の紐育に於て、売春婦二千人につき調査したる、年齢の統計表を掲げて参考に資するといふも、徒爾ならぬであらう。

紐育に於ける売笑婦の年齢(二千人調査)毎歳別

十五歳
十六歳 一七
十七歳 六二
十八歳 一四三
十九歳 二五八
二十歳 二六八
二十一歳 二〇六
二十二歳 一七六
二十三歳 一五三
二十四歳 九六
二十五歳 九七
二十六歳 七五
二十七歳 五三
二十八歳 五八
二十九歳 四九
三十歳 四四
三十一歳 一八
三十二歳 一六
三十三歳 二九
三十四歳 一五
三十五歳 一九
三十六歳 二三
三十七歳 一一
三十八歳
三十九歳
四十歳 二五
四十一歳
四十二歳
四十三歳
四十四歳
四十五歳
四十六歳
四十七歳
四十八歳
四十九歳
五十歳
五十一歳
五十二歳
五十三歳
五十四歳
五十五歳
五十六歳
五十七歳
五十八歳
五十九歳
六十歳
六十一歳
六十二歳
六十三歳
六十四歳
六十五歳
六十六歳
六十七歳
六十八歳
六十九歳
七十歳
七十一歳
七十二歳
七十三歳
七十四歳
七十五歳
七十六歳
七十七歳
二〇〇〇人

これを五歳別にすれば次表の如くなる。

紐育に於ける売笑婦の年齢(五歳別)

五歳別年齢 娼妓数 百分比
十五歳-十九歳 四八二 二四、一〇
二十歳-二十四歳 八九九 四四、九五
二十五歳-二十九歳 三三二 一六、六〇
三十歳―三十四歳 一二二 六、一〇
三十五歳―三十九歳 六九 三、四五
四十歳-四十四歳 四七 二、三五
四十五歳-四十九歳 一八 〇、九〇
五十歳-五十四歳 一一 〇、五五
五十五歳-五十九歳 一二 〇、六〇
六十歳-六十四歳 〇、二〇
六十五歳-六十九歳 〇、一〇
七十歳-七十四歳 〇、〇五
七十五歳以上 〇、〇五
二、〇〇〇 一〇〇、〇〇

即ち、右の数字に拠りて見るも、豊麗なる肉付きとなる十七歳から十八歳頃に至って、一躍二倍以上となり、十九二十歳には更にその倍数となり、二十三歳頃までを頂点とするが、二十七八歳から非常に減少し、三十歳以上になると甚しく少くなってゐる。然るに四十歳頃になって甚だしく売春婦の数字が昂まってゐるのを見るが、これは此の年齢頃になると一度劣えた女の容色が再びかへり咲くからではなく生活難の為めである。

更にハンブルグの登記売春婦五百二人の年齢を見るに次の如く、

二十歳以下のもの 一六
二十歳から三十歳のもの 四〇一
三十歳から四十歳のもの 七四
四十歳から五十歳のもの 一一

其の後同じく二百五十七人に就きて調べた際には

二十歳から三十歳のもの 一九九
三十歳から四十歳のもの 五〇
四十歳から五十歳のもの

なほ、仏国の公娼問題の大家パランジュシヤトレー博士の調査に依れば、(一千八百三十一年十二月三十一日)巴里の公娼二千二百三十五人の年齢は

十二歳
十三歳
十四歳
十五歳 一七
十六歳 四四
十七歳 五五
十八歳 一〇一
十九歳 一一五
二十歳 二一六
二十一歳 二〇四
二十二歳 二四九
二十三歳 二四〇
二十四歳 二〇七
二十五歳 一九三
二十六歳 二〇五
二十七歳 一五九
二十八歳 一五一
二十九歳 一二六
三十歳 一二二
三十一歳 二一七
三十二歳 一〇九
三十三歳 七八
三十四歳 七八
三十五歳 六四
三十六歳 五一
三十七歳 四三
三十八歳 三九
三十九歳 三七
四十歳 三一
四十一歳 二五
四十二歳 二一
四十三歳 二三
四十四歳 一五
四十五歳 一四
四十六歳 一一
四十七歳 一三
四十八歳
四十九歳 一〇
五十歳
五十一歳
五十二歳
五十三歳
五十四歳
五十五歳
五十六歳
五十七歳
五十八歳
五十九歳
六十歳
六十一歳
六十二歳
六十三歳
六十四歳
六十五歳
二二三五

右表中十五歳未満の少女があるが、これは一八二八年迄は本人の戸籍其家族、及素行等を調査することなく娼妓名簿に登録したのであるが、そのため斯く幼少女を見るので、一八二八年以来これ等幼少女の登録を受けつけず、加ふるに出産証書の騰本提出を命じ此の弊害の跡を絶つた。

之等の表を通じて見ても如何に売春と年齢との間に密接なる関係があるかを知る事が出来るであらう。