娼妓生家の職業

多くは生活難のため已むに已まれず身を売つて娼妓稼業のどん底に身を沈めるのであるから、娼妓の生家がもとより富裕であり得べき筈はない。「何故にお山は身をかくす、親父や立坊で母乞食」と言ふ勿れ、彼も我もともに人、たゞもつて生れた不幸の月日それは何人の罪か知らず、吾人は先づ彼等の生家の職業を調べて見やう。

次に示す資料は、村島帰之氏著の生活不安から得たのであるが、右数字の出処は大阪難波病院で取扱つた娼妓志願者809人の娼妓生家職業調査である。

之によれば農夫の子女が最も多く全員の3割を占め、商業の1割4分之に次ぎ、以下工業1割3分、労働者1割3分と いふ順序である。農夫の子女の多いのは人口の上から云つても当然さもあるべき事であるが、近時に於ける農村の疲弊を偲ばせるに足るものである。而て彼等の多くは僅かな前借金で其の身を売るのである。農家の子女を外にしては青物屋の娘、大工の娘、日雇労働者、車夫、職工等の子女に最も多い。これを表示すれは左の如くである。

娼妓生家一覧表

一、 農業   1,282人
  農夫 1,243
    植木残庭師 34
    養鶏業 5
    其他  
二、 商業   592
  青物商 137
    魚屋 89
    古物商 85
    菓子屋 75
    飲食店 57
    店員 28
    豆腐屋 22
    材木商 17
    小間物商 17
    旅人宿 17
    仲買人 17
    乾物商 17
    料理店 14
    其ノ他  
三, 工業   584
  大工 169
    裁縫 105
    鍛冶職 75
    理髪業 43
    左官 33
    木挽 28
    桶職 26
    指物師 24
    石工 22
    紺屋 19
    髪結 14
    屋根職 13
    錻力職 13
    其ノ他  
四、 労働者   575
  日雇 195
    車夫 108
    仲仕 85
    手伝 60
    小使 38
    工夫 24
    下女 11
    荷馬車挽 11
    消防夫 7
    病院附添 6
    土方 5
    馬子 5
    集配人 5
    芝居道具方 5
    運搬夫 5
    料理人 5
    其ノ他  
五、 漁業   187
  漁夫 186
    塩田業 1
六、 自由業   150
  官公吏会社員 55
    芸人 39
    按摩業 23
    帳場主人 8
    妓丁 7
    代書人 6
    僧侶 6
    教員 3
    売卜者 3
七、 職工   169
八、 船員   70
九、 無職業   126
十、 不明   608
合計     4,343

仏蘭西のジユシャトレー氏の調査によれば,巴里の娼婦は巴里に於て生れたるものは殆んどが職人階級から出てゐる。今公娼829人の生家職業の状態を観るに左表の如くである。

巴里に於ける公娼家庭の職業及員敷一覧表

澱粉製造 1
洗濯 5
帽子工、瓦斯織工、織工、縄工 19
麺麭,菓子製造 8
屠畜業 3
樵夫,屋根葺,煙突掃除 28
手鞄製造 6
屑屋 2
御者 35
鞣皮工 6
建築請負 4
家具製造,籃製造、針製造、団扇工,楽器工 8
肉切人 7
鞍工 3
行商 12
蝋燭工 2
石炭、水運搬 11
外科医、薬剤師、医師、弁護士 4
靴工 50
農夫、植木師、土方、葡萄栽培人 31
下男、門番 23
錻力工 8
印刻師、磨玉工、塗陶工 5
日雇人、仲介業、労働者 113
下等宿、室内装飾工 5
酒商 22
舟子 6
香味売、果物売 18
音楽師、踊師匠 9
各種将校 10
紙商 6
喞筒製造、噴水器製造 3
金銀飾工 5
鋳物師 18
小学教員 3
指物工、大工、木挽 31
大理石磨工 4
蹄鉄工、錠前師、釘工 23
機関夫、兵器工、庖丁工 11
廃疾軍人 30
乳牛飼 2
時計師、宝玉師、金銀細工 16
髪師 16
陶工、水晶切 6
筆工、執達吏、周旋業 4
刀銷磨工 4
彫刻師 2
裁縫師、古物商 23
染物師 3
旋盤匠、釦工 6
玻璃工 2
金利生活者、下級役員 64
俳優、曲芸手品 2
将基盤製造、黒檀細工 16
石工、探石人 21
樽工 11
料理人、飲食店、糖果製造 9
書工、印刷師 25
829