私娼の表看板と其の変遷

大正五年の私娼撲滅時代までの私娼の表看板は、銘酒屋、飲食店、小料理屋、新聞縦覧所等があった。隨って密淫売として検挙されるものも此の部類に多く、当局の取締に合ふ毎に看板替も屡々なされた。大正四年には密淫売として検挙された者、無職業者三百八十七件に次いで多きは、飲食店の二百〇七件、銘酒店の二百〇二件である。待合茶屋、料理店等は比較的検挙の手がとゞかない為少い。媒合として検挙されたもの無職の九十九件に次いで多きは、飲食店の五十二件待合茶屋の十八件銘酒店の十四件である。容止は待合茶屋の六十二件を首位に、飲食店の五十六件、無職の二十五件之に次ぎ、統計密売淫九百三十三件、媒合二百〇九件、容止百七十件である。翌年（大正五年）に至って密売淫として検挙されたものの、無職五百四十件（四割増加）を首位に、銘酒店二百六十六件（三割二分増加）飲食店の二百十二件、（〇割九分増加）の他に、芸妓八十七件（大正四年十二件）料理店の八五件、（十八割三分増加）遊技場の六十1件、媒合無職八十三件、飲食店六十件、容止現行犯、飲食店八十九件（六制増加）待合茶屋八十四件（三割五分増加）にて、密売淫総計一千二百九十五件（四割増加）媒合二百〇七件（二件減す）容止二百八十五件（七分増加）と云ふ、峻厳さを示し、爾来銘酒店、新聞蹤覧所の如き、甚しく其の数を減じた。然るに大正十年頃に至って私娼の表看板が造花屋に変り、遊戯場に化け、二度其の峻厳なる検挙の手を加へられ、大正八年頃には此程の私娼の表看板も全く跡を絶った。

自大正4年至大正13年 職業によりて分ちたる密売淫件数（累年表）

自大正4年至大正13年 職業によりて分ちたる媒合件数　累年表

自大正4年至大正13年 職業によりて分ちたる容止件数　累年表