東京府下に於ける遊客の消費したる遊興費を見るに、総額一千五百九十八万五千九百七十五円といふ、実に夥しき金員であるが今之を東京市に於ける学校建築費に使用するとしたら、どの位の学校が出来るであらう。現在東京市に於ける新築学校として東京第一とも云ふべきは、大正十五年三月末峻工した芝区赤羽小学校であらう。今此の建築費を見るに、敷地総坪数一千九百二十坪、此の費二十四万二千二百円建築費総額六十二万九千二百円此の計は八十六万九千四百円である。
若し右の遊興費を学校建築のため、使用するとしたならば、東京一の学校が十八ヶ校が建てられる訳である。
更に、東京市の学校建設費の、大正十五年度に於ける予算は、七百八十二万七千二百二十六円であるから、此の二倍の金員が遊興費に当てられて惜しまれないのである。
今各遊廓に於ける遊興費を見るに、其の最も多きは吉原の六百八十八万三千十八円五十七銭で、洲崎の四百四十一万四千五百二十六円十五銭、新宿の二百二十三万七千三十七円五十六銭、品川の百三十万八千百三十八円九十七銭、之に次ぎ最も少いのは、府中の七万二千五百九十六円七十五銭であるが、之を各遊廓に於ける、娼妓一人一日の稼高に割当てゝ見れば、新宿の十一円二十八銭最も多く、品川の八円四十一銭、調府の八円三十四銭、板橋の八円二十三銭之に次ぎ、最も少きは吉原の五円二十銭とし、平均一人一日の稼高は八円九十一銭である。
遊興費は大正十四年中娼妓数は同年末現在
| 組合又は 地域の区別 |
遊興費 | 娼妓数 | 娼妓一人平均一日の稼高 |
|---|---|---|---|
| 新吉原 | 6,883,018.57 | 2,046 | 5.200 |
| 新宿 | 2,237,037.56 | 543 | 11.280 |
| 洲崎 | 4,414,526.15 | 1,602 | 7.550 |
| 品川 | 1,308,138.97 | 426 | 8.413 |
| 板橋 | 342,816.34 | 114 | 8.239 |
| 千住 | 420,008.79 | 262 | 4.392 |
| 八王子 | 216,455.72 | 87 | 6.816 |
| 府中 | 72,596.75 | 34 | 5.850 |
| 調布 | 91,376,53 | 30 | 8.345 |
| 計 | 15,985,975.38 | 5,144 | 8.514 |
更に、之を貸座敷数に割当てゝ見れば、新宿の一軒一日の商高、百十五円六十三銭最も多く、品川の八十三円三十四銭之に次ぎ最も少きは、千住の二十四円四十八銭である。而して、全平均一日一軒の商高は、実に五十八円七十銭である。
尚この所得を楼主と娼妓に割立てゝ見れば、楼主は四十四円二銭、娼妓は一日一人に付二円十二銭、内一円二十七銭は借金の返済として、八十五銭が正味の所得となる訳である。
遊興費は大正十四年中貸座敷座は同年末現在
| 組合又は 地域の区別 |
遊興費 | 貸座敷数 | 貸座敷座一平均日の所得 |
|---|---|---|---|
| 新吉原 | 6,883,018.57 | 294 | 64.141 |
| 新宿 | 2,237,037.56 | 53 | 115.639 |
| 洲崎 | 4,414,526.15 | 272 | 44.465 |
| 品川 | 1,308,138.97 | 43 | 83.348 |
| 板橋 | 342,816.34 | 12 | 78.269 |
| 千住 | 420,008.79 | 47 | 24.483 |
| 八王子 | 216,455,72 | 15 | 39.535 |
| 府中 | 72,596.75 | 5 | 39.779 |
| 調府 | 91,376.53 | 5 | 50.069 |
| 計 | 15,985,975.38 | 746 | 58.709 |